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名古屋高等裁判所 昭和33年(ネ)252号 判決

控訴人 住田一義

被控訴人 国 外三名

訴訟代理人 鈴木伝治 外三名

主文

原判決を取消す

本件(控訴人住田一義、被控訴人国及び名古屋市)を名古屋地方裁判所に差戻す

被控訴人名古屋東税務署、同名古屋市北区役所に対する各控訴は却下する

被控訴人名古屋東税務署、同名古屋市北区役所に対する各控訴費用は控訴人の負担とする

事実

控訴代理人は控訴の趣旨として「原判決を取消す、名古屋地方裁判所昭和三十年(ヌ)第二八六号不動産強制競売申立事件につき同裁判所の作成した配当表のうち、被控訴人両名(国及び名古屋市)に対する配当額を各取消し、控訴人の配当額金五万八千七百二十九円を金七万五千三百七十四円に変更する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」旨の判決を求めた。

被控訴人国の指定代理人は控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人名古屋東税務署の代表者は昭和三十四年二月二十六日午後一時の当審口頭弁論期日に出頭したが何等の弁論をしなかつた。

被控訴人名古屋市の訴訟代理人は本案前の答弁として「本件控訴を却下する、控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、その理由として被控訴人名古屋市は原審では当事者でなかつたから、これに対する控訴は審級関係を乱す控訴として不適法である。控訴人は原審で被告を名古屋市北区役所から名古屋市に変更(訂正)したと主張するかも知れぬが、本件控訴で名古屋市北区役所も被控訴人に加えられているところを見ると、変更(訂正)とはいゝ難い。又、本件控訴を第二審で当事者の変更を申立てたものとみても、やはり新訴につき第一審を失わせることとなり、不適法である。以上、何れの点からみても本件控訴は不適法で却下を免れない、と陳述し、本案については控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人名古屋市北区役所の訴訟代理人は「本件控訴を却下する、訴訟費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人名古屋市北区役所は当事者能力なき者であるからこれに対する控訴申立は不適法にしてその欠缺が補正し得ぬものである。よつて控訴却下の判決ありたいとのべた。

これに対して控訴代理人は、控訴人は当初より国及び名古屋市を被告としたものであるから、控訴審においてこれを被控訴人とするのは当然である。その傍ら控訴人は名古屋東税務署及び名古屋市北区役所をも控訴状に当事者の形で並べたが、これは原判決が控訴人の当事者の表示の訂正を許さずして、右二体を当事者として判決に掲げたから、控訴人は已むなく之をも被控訴人として控訴状にかいたに過ぎぬもので、或いは不要であつたかも知れぬし、又、破棄差戻の場合はこちらだけでよかつたかも知れない、と陳述した。

当事者双方の本案に関する事実上法律上の陳述は、控訴代理人の陳述した原審口頭弁論の結果によると原判決摘示事実と同一(但し被控訴人国の陳述は原判決における被告名古屋東税務署の陳述と、被控訴人名古屋市の陳述は原判決における被告名古屋市北区役所の陳述と、それぞれ同一)であるからここにこれを引用する。

(証拠)

立証として被控訴代理人は甲第一、第二号証、甲第三号証の一、二を提出し、証人菱田清並控訴本人の当審での各供述を援用し、乙号各証の成立を認めた。

控訴代理人の陳述した原審口頭弁論の結果によると被控訴人国、被控訴人名古屋東税務署の各指定代理人は立証として乙第一、第二号証を提出し甲号各証の成立を認めるとのべて居り、被控訴人名古屋市被控訴人名古屋市北区役所の各指定代理人は甲号各証の成立を認めるとのべている。

理由

はじめに本件訴訟における第一審被告が何人であるかに就き考えてみる。本件記録によると、

(イ)  当初控訴人(第一審原告)は本件訴状において「被告名古屋東税務署右代表者大蔵事務官佐藤英治、被告名古屋市北区役所右代表者区長塩田実男」と記載したが、その後第一審第三回準備手続期日において訴状更正申立書に基き、「被告名古屋東税務署を被告国右代表者法務大臣中村梅吉に、被告名古屋市北区役所を被告名古屋市右代表者小林橘川にそれぞれ更正する。」旨を陳述したこと。

(ロ)  本件第一審口頭弁論期日には前記四者が何れも被告と称して関与していたこと。

(ハ)  第一審判決はそのうち訴状に記載された名古屋東税務署と名古屋市北区役所とを本件の被告と認定し、判決書上、そのような表示していること。

はそれぞれ明白である。

控訴人は当初から国及び名古屋市を被告とする意思で本件訴を提起したもので、訴状に被告を名古屋東税務署、名古屋市北区役所と記載したのは、被告の表示方法を誤つたに過ぎぬと主張する。

そこで考えるに、成立に各争いない甲第二号証甲第三号証の一、二、当審証人菱田清の証言の一部、控訴本人の当審での供述、本件訴状の請求の趣旨、請求の原因の各記載並に弁論の全趣旨(本件における控訴人の主張の態度)を綜合すると、控訴人は不動産の差押債権者として、執行裁判所が本件不動産競売手続につき作成した配当表の中(個人)再評価税なる国税債権、固定資産税その他の市町村税債権に対する配当額を取消して控訴人に対する配当額を増加変更することを求める為め本件配当異議の訴を提起したものであるから、当然訴提起の当初から前記配当(交付)要求債権の主体で配当(交付)要求債権者である国及び名古屋市を相手(被告)とする意思であつたところ、たまたま控訴人が閲覧した右執行事件記録においては、名古屋東税務署長大蔵事務官佐藤英治、及び名古屋市北区長塩田実男の各名義で各々交付要求書が提出されていたので、元々、手続にうとい控訴人は本件訴においては被告を斯様に表示すれば足ると誤解して之を筆写して代書人方へ持参し、訴状の代書方を依頼したところ、如何なる誤まりからか訴状には前記の如く「被告名古屋東税務署右代表者大蔵事務官佐藤英治、被告名古屋市北区役所右代表者区長塩田実男」と記載されるに至つたことが認められる。証人菱田清の供述中前記認定に反する部分は措信せず、他に之に反する証拠もない。

よつて右事実によれば、控訴人が訴提起の当初より国及び名古屋市を被告とする意思で居り、名古屋東税務署とか名古屋市北区役所とかの如き法人格(当事者能力)も持たぬ官公署を被告とする意思のなかつたことはまことに明白といわねばならない。

斯様に本件訴訟の被告は国並に名古屋市であり、名古屋東税務署、名古屋市北区役所ではないから、控訴人が後二者より前二者へと訴状の当事者の記載の訂正を申立てたのはまことに相当で之を許容すべきものであるし、原判決が前二者を被告と認めず却つて後二者を被告と誤認した結果本件訴を当事者能力なき者に対する訴として却下したのは失当というべきである。

次に当審における被控訴人が何人であるかという点につき考えることにする。控訴人は控訴状に国、名古屋市、名古屋東税務署、名古屋市北区役所の四者を被控訴人として掲げている。前述の如く控訴人は国及び名古屋市を本件訴訟の相手方と考えているものであるから、本件控訴にあたり此の両者を被控訴人とする意思であつたことは疑いをいれる余地がない。そこで名古屋東税務署及び名古屋市北区役所なる控訴状の記載につき考えるに、控訴代理人の当審での陳述によれば、控訴代理人は右二者を単に原判決との関連を示す為めに記載したに留まらず、やはりこれをも被控訴人とする意思であつたことが認められるものである。然らば上記四者は何れも本件控訴審における被控訴人であるということができる。

そこで続いて各被控訴人の適格、即ち之に対する控訴の適否及び各控訴の当否につき考えることにする。

論者は或いは、原判決は控訴人と名古屋東税務署、名古屋市北区役所との間の訴に対する判決であり、控訴人のいう如く、控訴人の国及び名古屋市に対する訴に対する判決ではないから、これに対する控訴において一審当事者ではない国及び名古屋市を被控訴人とするのは不適法であると主張するかも知れない。

成程、原判決には国及び名古屋市は被告として表示されていないが、それは原審の当事者誤認に基くものであり、客観的には国及び名古屋市が第一審における被告であつたこと前記の通りであり、控訴人の本件訴としては(客観的には)国及び名古屋市に対する一の訴があつたのみであるから、右本件訴を却下した原判決は控訴人の国及び名古屋市に対する訴を却下したものというべく、右判決に対する控訴申立には一審当事者たる右国及び名古屋市を被控訴人とすべき道理となる。

然らば国及び名古屋市に対する控訴は適法につきその当否につき考えるに、原判決が被告を誤認した結果控訴人の本件訴を不適法として却下したのが不相当であることは前示の通りであるから、本件控訴中控訴人が被控訴人国及び名古屋市に対し原判決の取消を求める部分は相当であるが、かように訴を不適法として却下した第一審判決を取消す場合は必ず原審に差戻さねばならぬから、本件請求の当否につき判断することなく本件を第一審裁判所たる名古屋地方裁判所に差戻すことにする。

次に控訴人の被控訴人名古屋東税務署、名古屋市北区役所に対する控訴につき考えるに前示認定にしたがえば右両被控訴人は第一審被告ではない上に、これがいわゆる官公署であつて如何なる意味においても当事者能力のないものであることは法令上顕著であるから、これに対する控訴申立は不適法でかつ補正不能なものとして、却下すべきものである。

よつて民事訴訟法第三百八十八条第三百八十三条第八十九条第九十五条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 県宏 奥村義雄 夏目仲次)

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